はやべん〜7組〜


 ようやく4時限目の授業が終わり、担当教師が教室から出るのも待たずに室内は、昼食の準備に勤しむ喧騒に包まれた。
 もちろん野球部の面々も同様で、財布を抱えた水谷が早速買出しに行こうかというところである。
「なあなあ、オレ昼飯購買行くんだけどおまえらどうする?」
「今日は弁当」
 質問を受けた花井は机の横にかけたバッグから、縦に大きい弁当箱をひょいと取り出して見せる。見慣れた手作り弁当だ。
 なんだあ、ひとりか……。そう軽くしょげる水谷だったが、以外にも阿部が財布を手にして椅子から立ち上がる。
「あ、オレ飲みもん買いに行くから付き合うぜ」
「じゃあ二人分買ってきて。紙パックのお茶で良いからさ」
「ああ? 自分で行けよ」
「優しくねえな、ちょっと篠岡と話あんだよ」
 その言葉に水谷は素早く反応する。
「なんでお前が二人きりで」
「今度の練習試合のう、ち、あ、わ、せ」
 納得いかない卑怯だ抜け駆けだ! とでも言いたげな顔を面倒臭そうに見上げ、これまた面倒臭そうに一番の理由をゆっくりと強調して話す。
「水谷置いてくぞ!」
「うわああん、待ってよ!」
 一人打ちひしがれる男に興味などない阿部は、さっさと教室の入口を出ようとしており、水谷は慌てて後を追った。

 昼の一階昇降口前は、1年から3年までの生徒がパンを求め、たくさんの人だかりが出来ている。
 水谷は良くここの出張パン販売を利用するのだが、その人だかりの中に見慣れぬ人影を見つけた。
「めずらし、三橋がいる」
「よお!」
 こちらが声をかけるより早く、連れ立っていたもう一人が声をかける。田島だ。
 田島がこの場所にいることはそれほど珍しくはないが、三橋は殆ど利用しないため、ここで遭遇するのは片手で数える程度だ。
「なんだよ、おまえら弁当でも忘れたのかあ?」
 ニヤニヤと茶化すように言う水谷の横で、阿部は大真面目に三橋の前に立ちはだかる。
「三橋、ちゃんと栄養のあるもん選べよ? 菓子パンとか買ってたら承知しねえぞ!」
「うあ、オレ、べべべ弁当そのあの」
「出たよ過保護……」
 部活ごと以外でも西浦のエースに対する過保護―傍から見れば嫌がらせにも見える―は健在だ。
 可哀想に、三橋は阿部の責めるような、もとい心配するような目線に耐え切れず、既に涙目状態になりつつある。
 どうこの場を切り抜けようか思案する水谷を他所に、田島はあっさりと二人の間に割って入った。
「あーもー、勘違いうっぜえな!」
「ああ?」
「これはオレらのためのもんじゃねえの、オレもこいつもちゃんと弁当持ってきてっから安心しろって」
「はあ?」
「田島くん、時間が……っ」
 彼の仲裁で気を取り直したのか、今度は時計を気にしながら三橋が焦ったように間に入ってきた。
「よっし、コレ渡したら教室もどんぞ!」
「行こう!」
 嵐のように9組の二人は去っていく。
 取り残された阿部と水谷はポカンとその光景を眺めていたが、気がつけば、購買も人が疎らになりつつあった。
「……さっぱり意味がわかんねえんだけど」
「いちいち気にしたら負けのような気がするんだ、……なくなるから買ってくる」
 未だ毒気を抜かれたような顔で立っている阿部の肩を軽くひと叩きし、水谷は昼食を求めて歩き出した。


次で最後です。+α



2009.10


ブラウザバックでお願いします