はやべん〜+α〜


「今日は何にしようかな〜?」
 いつも恒例の練習後のコンビニで、西浦高校野球部の面々は空腹を満たすためのアイテム探しに勤しんでた。
 がっつりご飯系を選ぶ者、さくさくお菓子系を選ぶ者、ホットスナック系を選ぶ者と様々だが、そんな部員の後ろで輪に加わらず沖は雑誌を物色していた。
 いつもは皆と一緒にアレにしようかコレにしようかと悩んでいるのだが、今日はそのように悩まなくても良い理由があるのだ。
「買わねえの?」
「……っ!?」
 突然背後から聞こえた低い声に、思わず手に取ろうとしていたグラビア系の雑誌を乱暴に戻してしまい、沖は一人慌てた。
「かっ、買わない、よ?」
「いつも買ってんのに珍しいな」
「なんで知って……!」
「はあ?」
 沖の一人百面相に声の持ち主の阿部は?マークを浮かべたが、先ほど乱雑に戻された雑誌にチラッと視線を投げやり、大いなる誤解に気がついた。
「へえ、お前そういうの良く買うんだ?」
 意地が悪そうに口元を吊り上げる阿部の言葉に、沖はようやく「買わねえの?」の意味を悟り、ゆっくりと体ごと顔を背けた。
「言われて恥ずかしいなら一人で見に来いよ」
「だ、だって見てないと思ったんだもん!」
「脇が甘いな」
「みんな選ぶのに時間かかるじゃん」
「即決なめんなよ?」
 そういうと、右手にぶら下がった袋をひょいと持ち上げて見せた。
 沖は今すぐコンビニを飛び出し、家に帰りたい衝動に駆られた。
「まあ、それは良いとして、なんも買わなくて良いの?」
 そんな様子を見てか、阿部は一つ息を吐いてから話題を元に戻す。どうやらこれ以上突っ込んでからかうつもりはないようだ。
「……ん、まあ」
「ふうん、財布でも忘れたとか?」
「違うよ、今日は手持ちがあるんだ」
 今度は、その良く分からない返答に再び阿部の頭に?マークが浮かんだ。
 空腹を満たすに足りる手持ちとは一体なんなのか、それともまた会話の間に誤解でも生まれたのだろうかと首を捻る。
「田島に貰った、たまごパンがあるから、今日は買わなくても平気なんだよ」
 聞きなれないキーワードの登場に、思わず阿部は聞き返してしまう。
「……田島が食い物を人にやる、だって?」
「その反応、本人聞いたら怒られるよ……」
 そういわれても想像がつかないのだ。あれだけ食べるものに執着のある田島が、他人にものをあげるなど。
「うん、まあ、俺の持ってるおにぎりと物々交換をしたんだ。でも、ちゃんと他に弁当も持ってきてるから、夜食用にとって置いたんだ」
 一体どのような経緯を辿ってそれに至ったのかは知る芳もないが、そういえば、今日の昼休み購買で会った田島は、手にしたパンを自分のではなく誰かに渡すと言っていた。
 恐らくその誰かが沖のことだったのだろう。
「ふうん。なんだ、財布でも忘れたんなら半分やろうかと思ったんだけど……」
 そうぼそりと呟きながら袋の中身をチラ見する。
 昼間、三橋には菓子パンは買うなときつく言っておきながら、阿部が選んだのは、少し大きめでほんのりオレンジ色のメロンパンだった。
「……」
「なに?」
 開きかけた袋をまた閉じて、伏せていた顔を上げると、不可解そうな顔つきの沖と視線がぶつかった。
「や、阿部がパン半分くれるとか、想像つかない……」
「お前、凄く失礼だぞ……」
 阿部はぎろりと相手を睨んでから、とりあえずはまず、三橋と田島にこのパンが見つかって、昼間のことを文句言われる前にどう食そうか考えなければと頭をかいた。


 阿部が買い物を終えた面々の方へ向かい、そこに沖も加わり、野球部員は駐車場でエネルギーを補給し始める。いつもお馴染みの「うまそう!」の掛け声は、この時ばかりは空腹が先に勝ってしまい、皆無言で手と口を動かしている。
 もっとも、掛け声をかけようとしたところで、時と場合を考えろと誰かの突っ込みが入るのは間違いないのだが。
 昼間、田島に渡されたたまごパンを取り出し、袋を開けて齧り付きながら、沖はふとある事を考えた。今日の早弁が西広に見つかった時、何故か阿部に見つかったと変な勘違いをしたのだ。
 あれって、ただ単に……。
 ついさっきのように、背後から突然声をかけられるから、体が無意識のうちに反応してしまったのかもしれない。
 本当、ああいう声のかけ方は身体に良くないからやめて欲しいよなあ……。
 そんなことは本人に言えるわけもなく、口の中のパンと一緒に飲み込んだ。


田島=食べ物みたいになってしまいましたが。
食べてしまった分も、相手に必要なものだったのだと認識出来れば、その分相手にお返しするくらい優しければ良い。
2009.10


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