はやべん〜1組〜


「ああー!! 西広おにぎりなんか貰ってずっりいいい!!!」
 突然の大声は、眠気を堪えた古典の授業が終わってホッと一息をついた時にやってきた。
 堪えたといっても、半分は夢の世界にいたので、思考は軽く寝ぼけた状態だ。
「んなっ?」
 思わず変な声が漏れた自分の口を押さえて、栄口は慌てて巣山を探した。
 あの声には聞き覚えがあるし、叫ばれた名前にも心当たりがある。
 だが、巣山は既に教室の入口に立って様子を伺っている。その手には古典とは違う教科書が握られている。
 そして、栄口が自分を見ていることに気がつくと、そのまま彼の元に歩いてきた。
「おい、あれって」
「ああ、間違いなく田島。さっき教科書返しに来たから全部見てた」
「なんで西広が標的なの?」
「しらねえけど」
 もっかい様子を見てくると、巣山は教室の入口に向かう。
 入れ違いに他の部活のクラスメイトが、至極迷惑そうな顔つきで栄口に視線を向けて入ってきた。
「おーい野球部、お前らんとこのチビうっせーぞ」
「ご、ごめんねー?」
 なんで自分がやってもいないことで謝らなくてはならないのだろう。
「田島め……」
 ため息をついていると、肩をポンッと叩かれて顔を上げる。
「なんか、沖からおにぎり貰ってたよ」
「はあ、なんで?」
「俺が知るかよ」
 見て来るといっても、先程と同じように入口から様子を伺っただけのようだった。
 それもそうだろう、わざわざ田島の騒ぎに巻き込まれになど行きたくはない。
「3組の奴ら、もしかしたら食いもん交換してたのかもな」
「んん?」
「で、それを田島が帰りに見てしまったと」
「ああ……」
 この時間に交換していたのなら、恐らく二人は早弁でもしていたのだろう。
 あまり食に対して執着のない二人でも空腹に絶えかねるのだから、田島はもっとに違いない。
 そこを目撃されてしまったのだとすれば、あまりにも哀れで仕方がない。
「俺も危なかった」
「え?」
 おもむろに巣山が口を開く。
「実を言うと、さっきの授業中早弁してました」
「ええっ?」
「だって普通腹減るだろ〜?」
「そりゃそうだけど、食欲より睡眠だよ!」
「うっそでー! 授業は飯食いながらでも聞けるけど、寝たら聞けねえぞ!」
「うっ……」
 思わず反論してしまった栄口だったが、もっともな相手の言葉に声を詰まらせる。
「ノートとったんかよ?」
「……」
「やっぱり……」
 巣山は呆れ顔で軽くため息をつくと、自分の席へ戻り、一冊のノートを持って戻ってきた。
 古典、と書かれたノートだ。
「今日の範囲、テストに出るって」
「げ、マジ?」
「さっさと写せよ?」
「……、ありがたくお借りいたします」
 差し出せれたノートを両手で受け取り、栄口は深々と頭を下げた。


次は7組



2009.10


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