はやべん〜3組〜


 育ち盛りの男の子というものは、いつ何時だってお腹が空いて仕方がない。
 朝は5時半から夜は9時まで厳しい練習をして、昼間は必死に勉学に励んで、丸一日頭と体を酷使していれば尚のこと。
「みーちゃった」
「っ!?」
 突然後ろから聞こえた低くゆっくりな声色に、沖は思わず口を手のひらで押さえる。先ほどお腹に詰め込んだおにぎりが飛び出すのではないと思ったのだ。
「なんだあ、もう、西広かあ!」
 いつもの優しい微笑を向けるクラスメートを見て、ほっと一安心。一つ息を吐く。
「そんなにビックリするようなこと言ってないだろ〜」
「だって阿部かと思ったんだよ」
「……なんで阿部?」
「わ、分かんないけど」
 何故その名が出てきたのか、西広は不思議そうに首をかしげながら尋ねるが、当の沖にもそれは分からない。
 たぶん、いつものびくびくのせいだな。
 とりあえず、無理矢理答えを見つけて納得することにした。
「さっきの授業ノート大丈夫だった?」
 どうやら、授業中おにぎりにぱくついている沖を見かけ、心配になって声をかけてきてくれたらしい。その気遣いは嬉しいのだが、普通に声をかけてくれれば良かったのに、と、心の中で文句を言う。
「うん、へーき。ちゃんとノートは取っていたから」
 心配してくれた西広を安心させるため、先ほどの授業の時のまま広げられているノートを持ち上げ、ホラっ、と見せる。だが西広の眉毛は下がったままだ。
「ならいいけど、心配なんだよな」
「なんで?」
「だっていつも見てて思うんだけど、沖ってそんなに器用じゃないだろ?」
「え?」
「何か一つに集中していると、もう一つのことって、意識を向けてるつもりでも意外と頭に入ってこないもんなんだよ」
「あ、あの?」
「だからせめてノートだけでも取ってあれば復習は出来るから、それを確認しておきたかったんだ」
 そこまで一気に言うと、ようやく西広はにっこりと笑った。
「なんか、さりげなくひどいこと言ってない……?」
「え?」  まるで何のことか分からないといった風にきょとんとする顔を見て、沖は深く深くため息をついた。
「なんでもないよ、心配してくれてありがとな」
「やあ、どういたしまして?」
 本当に心配して言ってくれたことなのか、それとも確信犯なのか、今の沖には良く分からない。
 後者だったら恐いな……、と思いつつ、机の横に引っ掛けてあるかばんの中から、おにぎりをもう一つ取り出す。
「西広っ」
 自分の席に戻りかけていた西広を呼び止めると、振り向き様にそのおにぎりをぽーんと投げる。
「わっ わあっ」
「さっきのお礼!」
「ええ?」
 困惑する相手に向かってニカっと笑って見せると、照れたのか西広は少し赤くなったようだった。
「さ、さんき……」
「ああー!! 西広おにぎりなんか貰ってずっりいいい!!!」
「!!?」
 お礼を言おうとした西広の声は、突然割って入ってきた田島の声にかき消された。


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2009.10


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