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君と創る未来3 「阿部っ!」 帰宅ラッシュをとっくに過ぎ、利用客も疎らでしんとした構内で大声を上げてしまったのは、偶然に彼と会えたことが嬉しいからの何物でもなかった。 自分と彼の周囲の人間が幾人か振り向いたことで、沖は思わずしまったと口を手で塞ぐと、申し訳なさそうに歩を進めた。 それでも、抑える指と指の隙間から漏れ出てしまう口元の緩みは隠すことが出来ず、しっかりと阿部にばれてしまう。 「なに笑ってんの……」 「ごめん、だけどびっくりして」 隣に立つと、その立ち姿を頭からつま先まで一通り眺める。 お互い学校の帰りだというのに学生服姿ではなく、私服姿なのが変にくすぐったい感じだ。無論、私服なんて見慣れているはずなのだけど、そう思うのは自分だけではないはずだと沖は思う。 「学校の帰り?」 「ああ。お前もか?」 「うん、まあそんなとこ。というか、クラスの奴らと親睦会やった帰り」 「ふーん」 とは言っても、まだ仲良くなるには程遠く、人見知り気味の沖にとっては息の詰まる時間だった。だがこれから4年間共に過ごしていくわけだから、徐々にでも打ち解けていかなければならない。 「阿部は友達出来た?」 「どうだかな、なるようにしかなんねえよ」 「ってことは、まだなんだ?」 「なるようにしかなんねえって言ってんだろ!」 茶化すように言うと、図星だったのか阿部は少し語尾を強めて言い返す。 高校を卒業してまだそんなに経ってはいないし、その後の休み中に何度も会ったというのに、それぞれの環境が違うだけでこのやり取りですら懐かしく感じた。 知らない人間ばかりではないけれど、やはりいつも近くにいた人がいないというのは寂しいもの。本当はそれを伝えたいと思ったのだが、きっと話したら馬鹿にされると思うので言わない。 「これからは会おうと思わなけりゃ会えないねえ」 「思わないと会えねえの?」 「だってもう学校違うし、きっと大変だよ」 こうなることはお互いの進路を決めた時から分かっていたことだ。 それでも、実際に生活をスタートさせてみると、予想外に受け入れがたい現実とぶつかる。 「……別に休みの日とかに会えんじゃん」 阿部は簡単に言うけれど、ふつふつと湧き上がる不安は心の奥底に溜まりつつあって、沖は素直にそうだねと笑えない。 本当にこれから先、二人の時間を作るなんてことは可能なのだろうか。 「それでも、偶然会えるとやっぱり嬉しいよね」 これはもちろん本音だが、言ってすぐ悲しくなってしまった。今日みたいな偶然は本当に嬉しかったけれど、こういうことはそう何度も起こらないような気がするのだ。 それならばお互いに努力をすれば良い。 そんな、以前だったら考え付いたことが、今の沖には不安が先に勝ってしまって浮かばない。 なるべく顔に出さないようにと笑顔を崩さず阿部の方を見やると、なにやら照れたような表情をしている。たまに沖の発する言葉は、理系脳の阿部には心理的ダメージがあるらしく、対処に詰まってしまうことがある。 それは沖も同じで、阿部のオブラートに包まない物言いに羞恥を覚えてしまうこともあるから、お互い様だ。 「お前はほんっと、何でそういうこと言えんの?」 「ええ?」 「聞いてるほうが恥ずかしいよ」 「たまにはロマンチスト沖もどうですか?」 「嫌だね」 「何でよ!?」 不安をかき消すように、軽口を言い合う。 前にもこんなやり取りをしたことがあるなあとぼんやり考えていると、列車の到着を知らせるアナウンスが響いた。 最後に阿部と偶然会ってから約3ヶ月。 折を見てメールすると自分から言っておきながら、沖は未だにそれを実行出来てはいなかった。 忙しさに気をとられて、気付けば送るタイミングを完全に見失っている。 携帯を開いては閉じ、また開いては閉じるといった意味のない行動を、一体何度繰り返したのだろう。 阿部からだって来ないけど、彼はもともと必要以上の連絡は寄越さない。もし彼もきっかけを見失ってしまっているとしたら、メールすると宣言した自分が動かないといけないのではないかと思う。 ただ一言、『元気?』とか『最近どう?』とかそれだけでも良いのに、沖はメールを打つことに躊躇いを感じていた。 「思うより難しい……」 それはただ単に、タイミングを見失ってしまったから、だけではない。 離れたことで分かることもある。 この3ヶ月で、色々なことに気付き始めてしまったのだ。 「思わなきゃ会えない……けど、どうしたら良いのかな」 阿部と自分の未来に何が待つのか、考えれば考えるほど不安の渦に飲み込まれてしまいそうだった。 時系列はかなり前後していますので、読み辛くてすみません。 こんな感じで進んでいく予定です。ちょっと、後で書き直したくなりそう……。 2010.5 |