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君と創る未来2 「え、阿部って大学行かないの?」 「うん、オレは専門希望」 まだまだスタートしたばかりの3年生の夏、これから始まる夏大予選の話の他に登る話題といえば、もっぱら進学の話である。 進学、就職、未定等色々分かれるが、西浦高校野球部3年の面々はその殆どが進学組だ。 沖もその中の一人で、一応の希望大学名は進路調査票に記入して提出してある。だが、いまいち現実味が湧かないのは、まだまだ部活が中心であることと、本格的に受験勉強を始めていないせいなのかもしれない。 「阿部は親の仕事継ぐんだもんな」 じゃあ卒業したらどうするの?と質問しかけた沖を遮って泉が割って入る。 その言葉に着替えを中断して数人が飛びついた。 「阿部メンテナンスだっけ?」 「え、マジで? ってことは次期社長?」 「社長だって!? 阿部が社長!」 「そんな大したもんじゃねえよ」 次期社長という響きに目をキラキラさせて迫るチームメイトを、至極面倒臭そうにあしらうと、阿部は準備を整えて部室を出て行ってしまう。 沖は慌ててユニフォームの裾をズボンへ突っ込み、ベルトをはめるとその後を追った。 思い返してみれば、以前に彼の父親の職業を聞いたことがある。確か設備会社の社長をしていると話していた。 その時は別に何も気にはならなかったのだ。 「待ってよー」 彼が出て行ってからそれほど間を置かずに出てきたつもりだったが、思った以上に早歩きだったのか、そうすぐには追いつけず沖は先を行く背中へ声をかけた。 言葉は届いたようで、阿部は立ち止まって振り返ると眉を少し吊り上げた。 「なに?」 「歩くの早いよ……」 「だらだらし過ぎなんだっつの。もうすぐ夏大始まるんだから、気い引き締めろ」 「そんなの分かってるよ……」 グラウンドを見やると、既に後輩達は準備を整えストレッチを行っている。 これから始まる夏に期待と不安を持った表情をしているが、共通していることといえばそれぞれがやる気に満ち溢れているということだ。 こと1年生のそれは、2年前の自分達とまるで同じだ。 最後の夏だというのに、その3年生のうち阿部と沖だけが一番乗りというのがどうやら面白くないらしい。 これは直感なのだが、これまでの付き合いの中でかなりの高確率で的中するようになってきている。もちろんそんなこと、本人には秘密なのだけど。 「でもやっぱり考えちゃうよ」 「はあ?」 「……進路」 進路、という言葉に素早く反応して阿部の眉間に皺が寄る。 やはり沖の直感は当たっていたらしい。今だって、その話をしていて準備が遅れ気味だったのだ。 「担任が言ってたんだけど、躓いている教科があったら後回しにしないで今日からやれって」 「……」 「オレ、一応進学希望で出してるけど、そんな教科なんてたくさんあってさ。みんなどうしてんのかなって」 「……今は練習に集中」 「分かってるんだけど。それは分かってるんだけど、正直、将来の夢なんて良く分かんなくってさ……どれから手を付けりゃ良いのって思っちゃうんだよね」 卒業後の進路の話をする機会はあっても、将来の夢とか、なりたい職業を友人と語り合うことなんて、成長するにしたがって減る一方だ。 子供の頃の夢が、そのまま継続するなんてことは稀な話。 何のために進学するのか、どこへ進めば良いのか悩んでいた沖の目の前で、既に阿部はそれが定まっていることが分かって少し動揺してしまったのだ。 どうしてか、阿部は自分と同じように大学へ進学するものと思っていた。 ならば、一緒にキャンパス見学に行ったりあわよくば同じ大学を受験したりなど、都合の良いことが頭を掠めたこともある。 それが専門学校へ進学希望で、自分とは違って親の職業を継ぐなどどいう将来のことまで決まっていたなんて。沖は自分の呑気さにため息を付くと同時に、一人取り残された気分になった。 「阿部の将来の夢がもう決まってたなんて、知らなかったよ」 「つかオレ長男だし、跡取りなのはもう前から分かってたことだしな」 「なんか置いてかれてるなあ」 「……お前も一応決まってんだろ? 大学に行くってのは」 「でもそれだけだよ」 「充分じゃん、4年間で見つけりゃ良いだろ」 一人悩む沖の気持ちなど少しも汲むつもりはないのか、阿部は淡々といつもの調子で軽く返す。 それが何故だか彼らしくて、沖はふっと笑って嫌味っぽく言った。 「簡単に言うよねー」 「どうでも良いけど、あいつらまだ来ねえの? 3年だからってだらけ過ぎ!」 阿部がいっそう不機嫌になって部室棟の方を睨むと、ようやく準備を終えたメンバーが走ってやって来るところだった。 おそらくあの後、それぞれの進路の話に花が咲いてしまったのだろう。こうしてる間にも、後輩達はストレッチすら終わってしまうところだ。 確かに一番重要な学年がこれでは、部活内の緊張感もあったものではない。 「勉強も大事だけど、今一番重要なのは大会! お前だってちゃんと分かってるとは思うけど」 「大丈夫だよ、ちゃんと分かってるって。だから阿部と一緒に待ってんだろ」 「ほんとにあいつらは……」 イライラを隠せず右足で地面をとんとん踏み鳴らす仕草に、相変わらず変なところで熱血なんだよなあと苦笑する。 最高学年になって、その分悩みもたくさん増えた。けれど阿部の言うことも一理あって、今は部活に集中することが一番だ。 最後の夏、甲子園出場の切符が掛かっている。 だが、この会話で阿部が話した言葉がこれから先、沖を長く苦しめることになろうとは、阿部はもちろん沖自信もまだ気付くことはなかった。 沖父の職業はなんだろう。普通に公務員とか会社員っぽい感じはするのですが。 沖は進学することは決めていても、将来の夢は模索中という設定です。以外に夢とかあやふやにしか持ってなさそう。 2010.5 |