君と創る未来1



 高校を卒業して3ヶ月。
 最初のオリエンテーションこそ知らない人間ばかりで煩わしさを感じたが、せわしない毎日は過去のことなど振り返っている暇もなく、程なく新しい環境には溶け込んでしまった。
 専門学校の授業体系など高校の延長に過ぎず、ただ場所が遠くなった分、通学手段が自転車から電車へ切り替わったくらいだ。
 阿部は当たり前のように流れていく日々を淡々と過ごしていた。
 高校を卒業して大きく変わったことといえば、初めて合コンを経験したことだろうか。
 進学した建築系の学科は男子率が高く出会いの機会など少ない。初めは断ったのだが、人数合わせでも良いからと、それなりに仲良くなった同じ学科の友人に連れられて行ったのだ。
 当然、阿部のつっけんどんな性格に女子が興味を示すわけもなく、結局2次会に誘われなかったのを良いことに帰ってきてしまった。
「はあ……めんどくせえ」
 そして今、阿部は自宅に帰るためにホームで電車を待っているところなのである。
 もちろん自分だって一端の男子であるから、女子に興味がない訳ではない。一度くらい彼女を作ってみたいという気持ちだってある。
 それでも、積極的に踏み込もうとしないのは、大切な存在があるからだった。
「……」
 帰宅ラッシュを過ぎた夜のプラットホームは人が疎らで、誰もいない一角を狙って、待機線の先頭に立つ。
 ショルダーバッグの外ポケットから携帯を取り出すとぱちんと開き、新着のないメールボックスを見ると力なくまた閉じた。
 梅雨特有のじめじめとした空気が身体に纏わりついて気持ち悪い。携帯を持つ手も、湿気で湿るのかそれとも汗なのか、ぬるっとした感触が伝わる。
 たぶん、最後に沖と話したのは入学して1週間ほどたった頃だ。今日くらいの時間に、やはりホームで電車を待っている時のことだったと思う。
『阿部っ!』
 偶然会えたことが嬉しかったのか、笑いながら話しかけてきたその顔は、何かの集まりの帰りだと話していた。
 お互い学校の帰りだというのに、見慣れた学生服姿でないことが何故だかくすぐったかった。
 阿部とは違い大学に進学した沖とは、同じ路線を使用していても授業の時間帯が被らないため、滅多に会うことはない。それは、進学先が決まった時におおよそ分かっていたことではあった。
『別に休みの日とかに会えんじゃん』
『それでも、偶然会えるとやっぱり嬉しいよね』
 まだ高校在学時にそんな夢ないことを口走った阿部に対して返した言葉と、同じ言葉を話していたことを覚えている。
 あの時はそれぞれの近況報告や元チームメイト達のことを、時間の許す限り話した。
『授業の選択とか色々あって忙しいから、少しの間あんまりメール出来ないかも……』
 別れ際、申し訳なさそうに沖が言うので、遅い時間帯で人がいないことを良いことに彼の頬に手を添え、
『まあ、最初は仕方ねえだろ。そのうち落ち着けばまた元に戻るよ』
 そう言って優しくなでると、安心したのか少し恥ずかしそうに微笑んだ。
 本当は衝動的にキスをしてしまいたくなったのだが、そこはぐっと堪える。次に会った時、ゆっくりすれば良い。
『じゃあ、また折り見てメールする』
『ああ』
 暗闇の中に消えていく後姿を、阿部は暫く見つめていた。
 あれからどれくらいたったのか、その"また"は、まだやってこない。
 その後、阿部の方も親睦会やら授業のことやらで忙しい日々を送った結果、メールなど送る余裕などなかったのだ。
 メールなどという簡単な通信手段は、きっかけを見失ってしまったら、次に送るのはとても難しい。毎日会えた数ヶ月前は分からなかった。
「いっそのこと、また偶然会えたら良いのに」
 汗でぬるつく携帯をぎゅっと握り締めると、阿部は、まだくるはずのない列車の方向を見つめた。



 また着地点の分からない話を書き始めました。
 14巻の阿部父の職業が判明したので、そこからの未来捏造妄想です。たぶんちょっと暗い感じになるかもしれません。
 少しお付き合い頂ければと思います。

2010.5
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