手を繋ごう



「手を繋ごう!」
「……はい?」
 突然の水谷の言葉に、隣を歩いていた沖は思わず立ち止まり、反射的に一歩後ろへ下がって距離を取る。手にぶら下げたビニール袋が大きく揺れて足に当たった。
 当たり前だ。
 こんな昼間から外で手を繋ごうなんて、小学生でもしない。いや、それは一概には言えないのかもと、沖の思考がぐるぐると回ったのは、二人の前を歩く少年二人が手を繋いでいたからだ。
 たぶん水谷は、あの二人を見てこんなことを言い出したのだろう。
「嫌なの?」
 何をそんなに悩む必要があるの?と言わんばかりにきょとんとした表情で、水谷は左手をずいっと差し出す。
「えー……、嫌とかそういう問題でもない気がするけど」
 彼と手を繋ぐことは嫌ではない。実は誰にも秘密だが、二人で手を繋いで歩いたことだってある。
 それでも沖が渋るのは、今までは誰もいない学校の帰り道であったりとか、どちらかの家に遊びに行って二人それぞれ本を読んでいる時であったりとか、誰も見ていないという安心感の元だったからだ。
 けれども今はじゃんけんで負けた部活の買出しの帰り、目の前に小学生だって歩いている。
「時と場所を考えましょうか、水谷さん」
「別に仲良しが手を繋ぐのなんて、おかしくもなんともないじゃん」
「……それ冗談で言ってるんですよね?」
「オレはいつだって本気だよー」
 そう言ってにこっと笑う水谷の締りのない顔に、沖は頭を抱えてしまった。
 本気で言っている分たちが悪く、嫌ですなんて言おうものなら、彼は大真面目に落ち込むに決まっている。
 別にそれくらい友達であれば気にする必要もないのだろうが、沖はそうなった水谷を見たくはないなあという思いがあって、複雑な心境だった。
「オレ達、高校生だよ?」
「知ってるよ」
「……」
 いつまでも渋って答えをのらりくらりと引き伸ばす沖に痺れを切らしたのか、水谷はささっとその右手を掴んだ。
 いつもなら沖の利き手である左を握るのだが、今日は買い物袋で塞がれてしまっている。
「わっ! ちょっと」
「なーんて、本当は嫌じゃないんだよね?」
「ええ?」
 不意を突かれて沖が一人焦っていると、水谷はその様子を面白そうに眺めた。
「嫌なら嫌って、正直に言えば良いのに、沖はそれを言わないんだよね」
「な、だって、言ったらお前、変に落ち込むじゃん!」
「そうだけど、オレがこんな無茶振りすんのはね、沖もきっと同じだって思ってるからだよ」
「はあ?」
「嫌なら離せば良いのに、お前も手、握ってんだもん」
 そう言うと、繋がれた手をひょいっと上に持ち上げる。
 二人の手はお互いをしっかりと握っていた。
「あー……」
「お前面白いなー」
「こんなの無意識だよもう、オレの意思じゃない」
「心の中で思っているから、無意識にこうなるんじゃないの?」
「知るか、そんなの」
 言い合いをしながらも、繋がれた手をどちらも離そうとはしない。
 触れ合った手のひらから熱が伝わって、気持ちまで届いてしまいそうで顔の熱も心拍数も上がっていく。
 少しずつ少しずつ、日が傾いて早く歩かなければチームメイトに遅いと怒られてしまう。
 じゃんけんで負けてしまった二人は、本当はこんなことでぐだぐだしている暇はないのだが、一度繋いでしまった手を離すことは意外と難しい。
 目の前を歩いていたはずの小学生はもういなくて、取り残された高校生の男子二人は暫くの間、手を繋いでゆっくりと学校までの道を歩いていた。



 水谷と沖は歩調が同じ気がします。
 三橋とはまた違った意味で空気が似ていると思うのです。


2010.6
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