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「あけましておっめでとー!」
「なんか気合入ってんね」
 いつもより2割り増しくらいの大声で挨拶をしながらフェンスをくぐると、先に来ていた巣山が少し呆れた様子でこちらを見ていた。
「そりゃ入るよ、だって今日から練習だもんね」
「お前、そんなに練習好きだったっけ?」
「ええっ、好きに決まってんじゃん! なに言ってんの!?」
 訝しげにそう疑問を投げかけられると思わずムキになってしまう。
 だってそれは、さっそく痛いところを疲れてしまったからだ。
 今日は何の日?など尋ねなくても、自分で散々言いふらしてしまったからみんな知っているかもしれない。
(オレ、今日から16歳だよ!)
 そう頭の中で考えては何度口元がにやけただろう。冬休み中とはいえ、月曜日なので部活の練習開始日なのだ。
 もちろん練習なんて二の次だ。自分の誕生日にみんなに会えるなんて、滅多にないことだからいつになく気分が高くなってしまうのは仕方のないことだと思う。
「あ、そうだ。はいコレ」
 そう言って巣山が背負っていたバッグの外ポケットから、リボンのついた小さな袋を取り出して差し出してきた。
「誕生日おめっとさん」
「わあ、ありがとう!」
 こんな朝から早々にプレゼントを貰えるなんて、オレってば幸せ者だ。
「お、みったにだ、おはよう」
「おはよう水谷」
「ういっす」
 巣山に貰った小さな贈り物を両手で包んで感動を味わっていると、後ろから声が聞こえて振り返る。
 順番にフェンスをくぐってきたのは、鼻の頭を赤くして寒そうな沖と、眠気などすっかり吹き飛ばしてきたような爽やかな西広と、反対にまだまだ眠くてだるそうな泉だった。
「おっはよー!」
 プレゼントを貰って気分の上がったオレは、更に2割り増しの声で挨拶を返す。すると、泉は眉間に皺を寄せていつもの恐い顔になった。
 こういうところは阿部に似ていると思うんだ。
「相変わらず朝からうざいくらい元気だな」
「うざいってそんな」
「まあ、それが水谷だからねえ」
「それって褒めてんの? 貶してんの?」
「あはは」
「笑ってごまかすなんてずりーぞ、西広!」
「まあまあ、落ち着けよ」
 正直こんなふうにからかわれて落ち着いていられるか!と思ったが、沖が肩をぽんぽんと叩いて苦笑しているので、急に恥ずかしくなってしまった。
 これじゃあ、まるでなだめすかされている子供みたいだ。
「ふふ、朝から元気な水谷くんにこれをあげよう」
「じゃあオレからも、はい」
「不本意だけど、仕方ないからやる」
 泉の最後の一言は余計だが、3人はせーので同時にそれぞれリボンやシールのついた小さい袋を取り出してきた。
「これってもしかして……」
「もしかしなくても誕生日プレゼントだよ」
「おめでとう、水谷」
「今年はナイスレフトになれるよう頑張れよな」
 3つのプレゼントを受け取りながら、オレは本当に幸せ者だと思った。巣山の分と合わせて4つの袋が手の中に納まっている。
 みんなが練習の準備をするため部室へ向かう後姿を眺めてから、それを大事に大事にバッグへとしまった。 
「水谷あけおめえ!!」
「んがっ!?」
「ああもう、なにやってるの!」
 バッグへと閉まった直後、威勢の良い声と共に何かに飛びつかれたような突然の衝撃が襲う。
 勢いに負けてそのまま前へつんのめりそうになるのを、なんとか踏ん張って堪えると、背中に張り付いたものが引っぺがされたようで軽くなる。
 後ろから飛びついたのは田島で、珍しく栄口がそのお守りをしているようだった。
 だが、良く見るとその後ろと更に後ろには花井と阿部がいて、呆れた顔をしてこちらを見ていた。
 どうやら田島の行動を制するのを放棄したらしい。なんだって三橋の時は必死でそれを抑えるのに、あまりに待遇が悪すぎだ。
「花井、お前こいつのお守りはどうしたんだよ!」
「ああ? 新年早々そんなのめんどくさくて嫌だよ」
「うええ!?」
 面倒臭いなんてあんまりだ。それってオレが重要視されていないことの表れなんじゃないだろうか。
「田島のお守りはキャプテンとしての必要義務だと思うけど」
「久しぶりの練習なんだから好きにさせてやれば?」
「阿部には聞いてないよ!」
 そして、そういうことでもないと思う。年が新しくなっても阿部は相変わらず理不尽なままだ。
 そんなオレらのやり取りを横で見ながらくすくす笑っていた栄口は、田島の方をとんっと叩くと、そのまま花井と阿部にちらりと目線を送る。
 だが当然、オレが気づくわけもない。
 4人はそれぞれバッグやポケットをごそごそ漁ると、ほぼ同時に小さな袋を取り出した。今度は淡色の柄がプリントされた袋とか、リボンのないものとか割とシンプルな外装だ。
「誕生日おめでとう!」
「あ、ありが、とう!」
「三橋みてーだな」
「そういや三橋は?」
「まだ来てないみたいだね」
「寝坊とかなんじゃねーの?」
 たとえ、一瞬にして話題がうちのエースのことに切り替わってしまったとしても、今は許せそうだ。
 また増えてしまったプレゼントを大事にバッグにしまっていると、息を切らしながらフェンスをくぐって入ってくる、我が部のエースと目が合った。
 オレと目が合ったのは予想外だったのか、目線を縦に横に泳がせてきょろきょろしたかと思うと、開いた扉を閉めてしまう。
「なんで!?」
 思わず反射的に駆け出してグラウンドの入口まで向かうと、三橋はびくっと肩を揺らして、そーっと逃げる体制に入る。
 オレはそれを見逃さず、そのまま扉を開けるとその上着のフードを引っつかんだ。
「逃げる必要ないじゃん」
「う、その、あの、水谷くん……おはよめでとうざいます」
「っ!?」
 極度の緊張がそうさせたのかは分からないが、色々言いたい単語が混ざり合って、良く分からない全く新しい言葉に吹きそうになって慌てて口を覆う。
「は、はよっ」
「今日、水谷くんのたん、じょうび、だから、……その、あのそのえーっと、コレ!!」
「ええ?」
 緊張に加えて動揺もしているのか、コレ!と言って渡されたのは三橋の荷物だった。
 きょとんとした顔で三橋の顔を見ていると、すぐに間違いに気づいたのか、慌ててバッグを足元において中をがさがさとかき回し始める。
「じゃ、なかっ……た! えっと、待って、……コレ!」
 三橋のごちゃごちゃしたバッグから出てきたのは、他のチームメイトと同じような大きさの、丁寧にリボンの巻いてある袋だった。
 おそらく、花井たちと話しているオレを見てタイミングを見計らっていたら、思いがけず目が合ってしまったものだから慌ててしまったのだろう。
「三橋、サンキューな!」
 そう言って差し出されたプレゼントを受け取ると、三橋はいつもの締りのない顔になってうひっと笑う。
 冬休み中にやってくる自分の誕生日が、今まではあまり好きになれなかったが、今年からは好きになれそうな気がした。


 休み中の練習開始日が今日で本当に良かったと、貰った9個のプレゼントを眺めながら、水谷はふとあることに気がついた。
「……なんで全部同じ大きさなんだ?」
 貰ってすぐは感動と嬉しさのあまり気にも留めていなかったのだが、こうして並べてみると良く分かる。どれも包装は違えど、大きさ・重さ・感触が同じなのだった。
 ということは中身もきっと同じなのだろう。
 仲間から受け取った贈り物をにへっと笑いながら再びバッグへ閉まっているところで部室のドアをノックする音が聞こえた。
 一番最後に部室に入った水谷は当然ながら準備も遅く、他のチームメイトに置いていかれて今ここにいるのは彼だけだった。
 それなのにノックをするということは、浜田か篠岡か。
「どうぞー」
「失礼しまーす」
「ちーす」
 果たして入ってきたのは浜田と篠岡、両方だった。
「水谷くん誕生日おめでとう!」
「おー、ありがとう」
「あいつらからプレゼント貰ったろ? そういうわけでそれを全部渡しなさい」
「は? なんでだよ!?」
 笑顔で何を言うかと思えば、浜田は両手をずいっと出して水谷を見ている。
「うん、あのね、これ私からのプレゼントなんだけど……」
 だが、その横で篠岡が紙袋に入った何かを見せてくる。
 片方ではくれると言い、もう片方は寄越せと言う。水谷は話が繋がらず混乱してしまった。
「え、え? なにこれイクラ?」
「その9個の袋とこれを足して、お前の誕生日プレゼントの出来上がりってわけ。それ中身空けてみてみろよ」
 言われるがまま今日貰ったプレゼントの一つを開けて、水谷はようやく全てを理解して固まった。
 中身は全て白米だった。
「悪く思うなよ。これでもあいつらお前のために色々考えたんだからな」
「うん、みんな水谷くんのこと大好きなんだよ」
「……」
「あれ? 怒っちゃった……?」
 顔を腕の中に埋めてそのまま黙ってしまった水谷を見て、怒ったと思ったのか、篠岡は心配そうに声をかけてくる。
 しかし、実際はその逆だった。
 元は自分の勘違いで始まったことだ。あれから暫くは米とからかわれたが、月日が流れてみんな忘れてしまったと思っていたのに、そうではなかったことに不覚にも胸が熱くなってしまったのだ。
 そんな些細なことを覚えていてくれる仲間がいることが嬉しい。
「ううん、本当、ありがとな」
 まだまだ顔は上げられそうにない。



 文章が支離滅裂で分かりづらくなってしまいました。らーぜ全員出したかった。
 言いだしっぺは誰だったか、知っているのは本人以外です。


2010.1
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