ペットボトル


 部活の帰り道、いつものコンビニに立ち寄って空腹を満たす。
 梅雨のほんの晴れ間の日、雨は降っていなくてもやはりじめじめと気持ちが悪い。
「暑い」
「蒸し暑い」
「暑苦しい」
 店の入口の車止めに腰掛け、阿部と沖はそれぞれ買ったものを頬張りながらその言葉を繰り返していた。
「そこの二人、暑い暑い言ってんなよ。こっちまで暑くなんだろ!」
 突然割って入ってきたのは花井だ。
 聞かなければ良いものを思ったが、阿部の後ろで壁にもたれていたせいか、会話が全て耳に入ってきてしまったらしい。
 おでこにはうっすらと汗が滲んでいるのが分かる。この分では、頭に巻いたタオルの下は大変なことになっているに違いない。
 だが、阿部も沖もそのことについては気付かないふりをした。
「お前が一番、暑いって言ってね? なあ?」
「うん、言ってる」
「はあ?」
「そうやってテンション上がってるお前が一番暑苦しいよ」
「人の揚げ足取りばっかりしやがって」
 さらっと毒を吐くと、花井は少し打ちのめされたような表情になって、その場を離れていく。
 肩が下がって、なんだか寂しく見えた。
「ちょっと言い過ぎじゃない……?」
「別に平気じゃねえの?」
 沖は申し訳なさそうに、先程とは離れた場所へ歩いて行く花井の後姿を見つめた。
 けれど、阿部はさして気にした風でもなく手持ちのペットボトルのキャップを開ける。
 そう言えば結局、飲み物買い忘れちゃったなあ……と、それを横目で見ながら沖は小さくため息をついた。
「でも、じめじめしてても喉は渇くね……」
「お前、飲みもんは?」
「いっかなーと思って買わなかったんだ」
「ふーん。……じゃあ、これ一口やる」
 別に飲ませて欲しいとか、そういうつもりで言ったわけではないのだが、阿部は飲みかけのペットボトルをずいっと沖の前に突き出した。
 店はすぐ目の前なのだから、ちょっと行って買ってくれば済むことだ。
 けれど、沖は素直にその好意に甘えようと手を伸ばす。
「良いの? あんがと」
 受け取って飲み口を自分の口元に近づけてから、ふとあることに気がついた。
 これは阿部の飲みかけなのであって、それを飲むということはつまり――。
 沖がハッと顔を上げて思わず阿部の顔を見たとき、彼もまたそのことに思い当たったようで、目を丸くしてこちらを見ていた。
 そこはお互いまだ純情な男の子である。
 女子が良く間接キスがどうのと騒いでいたときは、くだらないと思っていたのに、いざ自分がその状況に陥るとどうして良いのか分からなくなる。
「や、やっぱ返せ! オレが奢ってやっから!」
 手にしていたペットボトルを取り返しにかかる阿部に、一瞬反応が遅れたが、沖は反射的にそれを避けていた。
「え、あ、良いよ! これで!」
 せっかく自分に飲んで良いよとくれたのに、それを無にはしたくない。
 このまま飲んだら阿部と間接キスをすることになるという事実も忘れ、取り返されないうちにと、沖は急いで中身を飲み干してしまった。
「うわっ!? あああああ!!」
 全て飲み干してしまった後、当然のように二人は、お互いの顔を見合わせて顔を真っ赤にして固まった。



拍手お礼小話だった阿部×沖。
甘いの通り越してうざい。


2011.11


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