じゃんけん


「ち、よ、こ、れ、い、と」
 一つじゃんけんをして、自分が出した手と相手の手を見比べ、ニヤッと笑うとくるっと回って階段を登る。
「じゃんけん、ほいっ」
「ああっ! まただ!」
 出した形そのままの自分の手を眺め、篠岡はむうっとふくれっ面をした。
 そんな彼女を横目に、沖は一段ずつ踏みしめるように歩を進める。
「ち、よ、こ、れ、い、と」
「何でそんなにじゃんけん強いの?」
 階段の踊り場を折り返してなお勝ち続ける沖は、篠岡の質問に身を乗り出して下を見る。
 二人の間には、だいぶ差が出来ている。
「しのーかが弱いんだと思うよ」
「なにそれ!」
 悔しい!と、握った手を上下に振っている。
 学校の非常階段を使った競争は、ここまで沖の勝率6割といった具合だが、差が出来ては縮まりまた開いては詰まるの繰り返しだ。
 なかなかテンポ良く進んでいるのではないかと思う。
「なあ、オレそろそろゴールしちゃうよ」
「そんなの折り返しで下まで降りれば良いんじゃない?」
「でもまたオレが勝っちゃったら?」
「勝負は最後まで分からないもん」
 変に負けず嫌いなのか、ふくれっ面のままふいっと横を向く彼女が可愛くて、沖はくすっと笑う。
「じゃんけん、ほいっ」
 チョキとパーでまた沖の勝ち。
 とうとう頂上までたどり着き、後半戦へと突入する。
「しのーかってこんなにじゃんけん弱かったっけ?」
「沖くんが強いんだよ」
 そうかなあ。
 そう心の中で呟いて、沖はあれ?っと思う。
 今までの勝負でチョキで勝つことが多くはなかったか?
「じゃんけん、ほい」
「やった!」
 今度は久しぶりに篠岡が勝って歩を進める。
「じゃんけん、ほい」
 だが、その次がチョキとパーでまた沖の勝ち。
 あまりにもチョキで勝つ確立が高すぎる。気のせいではないのだと思う。
「ち、よ、こ、れ、い、と……あ」
「どうしたの?」
 疑問に思いながら歩を進めるうち、沖はあることに気付いてしまった。
 自分の考えが正しければ、篠岡はわざとやってることになる。
「な、なんでもない」
 チョキで勝ったら「ちよこれいと」。
 沖はここまで一体どれだけ彼女の名前を呼んだのだろう。
 自分の名前を呼んで欲しくてわざとパーで負けるなど、それこそ都合の良い解釈なのだろうが、今はその考えが正しければ良いと思う。
 そして、これからまたチョキで勝った時、声に出して進めるのかどうか熱を帯びる頬を押さえて必死に考えても、全く分からなかった。



拍手お礼小話だった沖→←千代。
オキチヨも好きなんです。千代ちゃんが計算してたかは謎。


2010.6


ブラウザバックでお願いします