|
ラブレター 「どうしたら良いのか分かんない」 思わず口をついて出てしまった言葉は、千代の率直な感想だった。 部活の途中で数学室へ行くため上履きに履き替えようと、下駄箱の扉を開いたら、それがあった。 今どき下駄箱にラブレターなんて、古めかしいことをする人なんているのだ。 相手は他のクラスの人で、確か委員会が一緒だったような気がする。 申し訳ないとは思ったが、名前を見て、千代が思い描ける記憶はそれだけだ。 「どうしよう……」 もちろん答えは決まっている。 だけど、その手紙には返事が欲しいとかどうなりたいかとか、そんなことは書いてなくて、ただその想いだけが書かれているので、どうしたら良いのか途方にくれてしまったのだ。 こんなのは、とてもずるい。 「……篠岡?」 ため息を一つ吐いたところで、手元に影が出来て千代は顔を上げた。 「あ、阿部くん」 想定外の人物の登場に千代は慌てて持っていた手紙を、ジャージのポケットに突っ込んだ。 だが、その怪しすぎる行動に、さすがに阿部は気がついたようだった。 「なに? いまの」 「ん、なんでもないよ」 「なにか隠したろ?」 別に隠すようなものではないのだろうが、だからと言って嬉々として話せるようなものでもない。 まるで自慢みたいだし、手紙をくれた人に申し訳がないし、それにその想いを踏みにじってしまいたくない。 それに相手が阿部では、あてつけみたいになってしまう。それが嫌だ。 「そりゃあ、友達からの手紙は誰にも見せたくないもの」 「はあ?」 千代はうやむやにしてごまかしてしまおうと思った。 「メールすりゃ良いのに」 「別に阿部くんには関係ないでしょ」 「女って、わっかんねえ」 うまく話を逸らせただろうか? 横目でちらりと表情を伺うと、阿部は面倒臭そうに頭をぼりぼりかいていた。 変に立ち入られるのは嫌だけど、だからと言ってあんまり興味なく振舞われるのも面白くない。 確かに女心は難しいかもと、千代は思う。 「で、どうしたの?」 「ああ、監督が探してたから、呼びに来た」 「なんだろう? メニュー表のことかな」 「さあな。 じゃあ、俺は先に戻るぞ」 「あ、うん。 ありがとう」 用件を伝えると阿部はさっさと向きを変え、グラウンドへと戻っていく。 その練習で汚れたユニフォームの背中が、夕日に照らされて、なんだか眩しく見える。 「本当に友達からの手紙だと思ったの……?」 胸の奥が少しだけちくりとした。 拍手お礼小話だった阿部←千代。 切ない片想いは大好きです。 2010.1 |