空き教室



 最初に誘ったのはどちらだったのか、そう尋ねられれば間違いなく自分だと言いきれる。
 気温が上がったり下がったりの不安定な日々の中、徐々に増していく湿気が、閉ざされた室内で身体に纏わり付くようで気持ち悪かった。
「はあ、ちょっと、苦しい」
「ん、オレも」
 じっとりと絡み合った舌と唇を離すと、沖は深く息を吸い込んでゆっくりと呼吸をした。ずっと身体を密着させていたので、さすがにお互いが額にうっすらと汗を浮かべている。
 目を伏せて呼吸を整える阿部がなんだか可愛く見えて、沖はその前髪をそっとかき上げて汗の滲んだ額に唇を寄せた。
「なに?」
「こういう汗ってしょっぱいのかなと思って」
「……汗なんてどれも同じだろ」
 夢のない現実的な言葉でぴしゃりと撥ね退けると、髪をかき上げていた手を掴む。
 汗には色んな種類があるって聞いたけどなあ。
 沖はそんなことを考えたが、言葉にするのはやめた。面倒臭いからだ。
「時間平気?」
「まだ十分ちょっとあるよ」
 二人が時間を気にするのには訳があって、HR前の掃除をさぼって今は使用されていない特別棟の空き教室に来ているからだ。
 この教室は、沖が同じ階の清掃場所の担当であったときに偶然見つけたもので、その後数日監視していたのだが、まったくと言っていいほど使われている形跡がなかったので阿部を誘い入れたのだった。
 最初はキスだけで良かった。
 でも舌を絡ませてしまえばまた別の場所が疼くのは当たり前のことであり、ましてや近辺に他の生徒がいるという背徳感が、余計に二人の気持ちを高めてしまっていた。
「怖いの?」
「や、別に……」
 壁にもたれている沖は、視線を泳がせる阿部の腰を掴むと、無理矢理自分の方へと引き寄せた。
 布越しでも分かってしまう感触に、思わず笑みが漏れてしまう。
 いつから自分はこんなにおかしくなってしまったのだろうか。
「教室戻れねえな……」
「なんで?」
「絶対服汚れんだろ」
「……考えてなかった」
「バカじゃねえの?」
 だけど、汚れてしまったならそこだけ拭って取り替えればいいだけの話。
 ロッカーにジャージはあるはずだし、西浦は制服校ではないので、おそらく誰も気にしないだろう。
 さっさと着替えも済ませてしまえば誰も不思議に思うことはないはずなのだ。
 阿部のズボンに手をかけると、ベルトを外してチャックを下へおろし、熱を持ちつつあるそれを取り出した。
「オレは……時間ねえんなら我慢すっから、だから無理に」
「まだ大丈夫って言ってるでしょ」
 場所が場所だけに珍しく尻込みする阿部の言葉を遮って、自分のズボンも同じようにベルトを外してチャックを外すと、阿部のそれと一緒に掴んだ。
「どうあってもやる気か」
「オレだって、無理したいときくらいあるよ」
「変態だな……」
「お前にそう言われると、なんか複雑だ」
「どういう意味だよそれ」
 軽口を叩くと、阿部もようやく気持ちが前に向いたようで口端をニッと持ち上げる。
 残りのわずかな時間を有効活用するべく、二人は自分たちのそれをお互いの手で包むと、ゆっくりと動かし始めた。
 二つの熱い吐息が、室内を埋めていく。



たぶん3年生くらい。キスに慣れるのが2年生、エロいことをするのは3年生になってから。
あんまり受攻めに拘ってない感じですが、沖阿なのか……? 文章リハビリ中です。


2011.5


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