不毛な言い争い



「ねえ、なんでこんなとこに二人で入ってんの?」
「さあ、何でだろうな?」
「さっさと出たいんだけど」
「じゃあさっさとやるか」
「だっ、だからね!?」
「でかい声出すなよ!」
 それは阿部もじゃないか! という非難の声は、目の前の相手の手に塞がれて表に出ることはなかった。
 不毛な言い争いをしている阿部と沖は、今、ある意味閉鎖的な空間にいる。
「オレやだよ」
「どうして」
 どうしても何も、二人は男子トイレの個室に入っているのだった。
 普段、人の少ない特別棟の一角のトイレであり、授業中でもあるので誰かが入ってくる心配はないのだが、そもそもこのような場所に男二人で入っていることがおかしなことだった。
「せめて部室が良い」
「無理。鍵借りてこなきゃなんねえし、ここより誰か来るリスクの方がでかいだろ」
「だからってトイレは嫌だよ」
「他に場所ねえんだから我慢しろよ」
「じゃあ阿部が我慢してよ!」
「我がまま言いやがって」
「元は阿部の我がままじゃんか……」
 そもそも何故このようなことになったのか、原因は田島にある。
 昼休み7組に遊びに来た田島は、花井の制止も聞かず、前夜のおかずと回数の話を始めたのだ。
 さすがに首を絞められてまで大声で話すほど馬鹿ではなかったが、その手の話に食らいついた水谷と話が盛り上がっており、隣りで弁当を広げていた阿部の耳にも否応なしに内容が聞こえてきてしまう。
 ここのところ練習疲れで自分自身そんな暇がなったのと、その具体的な内容にどうしようもなくうずうずしてきてしまうのは、仕方のないことだった。
 横では花井相手に、くっだらねえと愚痴をこぼしつつ、器用に沖に呼び出しメールを送信し、今に至るのである。
 さすがにやり過ぎたかなとは思う。トイレの前で立ち止まる阿部を見て、何を考えているのか理解したらしく沖は入ることをためらったが、その腕を掴んで無理矢理個室に押し込め、鍵をかけた。
「悪い……でも、オレもう我慢できねえ」
「うっ……」
 謝罪をしながらも、さらっと本音を伝え真剣な目で射抜かれると、ぐだぐだ話をはぐらかそうとしていた沖は黙ってしまった。
「……触るだけでもいい」
「……うん」
 耳元でそっと囁くと、沖は数秒黙った後、顔を赤くしてうなづいた。
「うわっ」
 同意を得るや否や、阿部の行動は早く狭い個室の中、相手を後ろの壁に押し付けると片手で前髪をかき上げ唇を奪う。
 角度を何度か変えながらタイミングを見計らって舌を入れると、一瞬だけ沖はびくっと肩を震わせるがすぐに口を開き、両手を阿部の背中に回してきつくしがみついた。
 たぶん、同じ想いを抱えていたのは自分だけではないのだと思う。
 身体を密着させたことで気付いた相手の変化に、胸を高鳴らせながら、阿部は一度唇を離す。
「声出すんじゃねえぞ」
「そっちこそ」
 次に動いたのはどちらだったのか、薄暗い男子トイレの中、ベルトを外す金属音が響いた。




ぬるいえろです。描写なんて出来ません……。
場所替えを提案する辺り、沖にもその気はあったようですよ。


2009.12
2012.6少し修正


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